【新話】

2008/10/29 予定。
穴に落ちても気にしない。

穴に落ちる予定でしたもの。

木にぶつかっても気にしない。

木にぶつかる予定でしたもの。

池に落ちても、家が壊れても、

手荷物をなくしても、気にしない。

その予定でしたもの。

え?泣いてるかって?泣いてますよ?

泣く予定でしたもの。

END

2008/10/29 雨のち晴れ。
すごく晴れた日で、
こんなに雲が無くて大丈夫か?と、
心配になるくらいの快晴で。
久しぶりに手をつないで。
手つないでも汗ばまないくらいの、
ちょうど良い気温で。
爽やかな風が君の髪を揺らして、
ふんわり香る、君の匂い。



すごい雨の日で、
これ以上濡れるところがありませんってくらい、
全身びしょぬれになって。
君の背中をずーっと、
傘もささずに見てた。
見えなくなるまで。見えなくなるまで。



すごく晴れた日で、
カリカリに焼いたトーストに、
バターを塗らずに、イチゴジャムを塗り、
僕の横に持ってくる君も、
僕と同じように寝癖がついていて。
ニュースを流しながら、
ふたりで外の柿木を見ながら、
パジャマ姿で朝を満喫する。



すごい雨の日で、
となりに誰もいない広いベッドで、
しとしと降る雨の音だけを聞いて、
頬の下が冷たいと感じて、
それで「自分が泣いているんだ」と気付く。
雨だから今日は家から出ないことにする。
雨だから。


雨だから晴れの日のこと、思い出す。


電話が鳴って、
君からで、
今、あなたと過ごした、
たくさんの晴れの日とのこと思い出してたって言った。
僕も、晴れの日のこと思い出してたって言った。


久しぶりに、どこか行こうか?
ぜひ。と君が言う。



電話を切って窓を見ると、雨は止んでいて。



いつも待ち合わせしていた公園で、
君と久しぶりに待ち合わせて。
手を軽く上げて、走ってくる君。
「晴れたね」



それがすごく晴れた日で、
こんなに雲が無くて大丈夫か?と、
心配になるくらいの快晴で。
久しぶりに手をつないで。
手つないでも汗ばまないくらいの、
ちょうど良い気温で。
爽やかな風が君の髪を揺らして、
ふんわり香る、
懐かしい君の匂い。



END
2008/02/22 まる。

中身が四角かろうが、



三角かろうが、



見た目が綺麗な「まる」ならば、



いい時だってあるんです。


END
2008/02/09 作文。
祐樹は小学6年生。



明日、学校に提出しなくてはいけない作文がある。



夕ご飯をすませると、


二階の自分の部屋に入って、


机に向かい、


鉛筆を持って、


原稿用紙と向き合った。






そして、4時間が経った。





…ぜんぜん進まない。


まだ一行しか書けてない。



「どうしよう…どうしよう。」



祐樹は悩んでいた。










一階の玄関が開く音がした。


お父さんが帰ってきたのだ。



お父さんはゆっくりと二階に上がってきて、


まっすぐ祐樹の部屋に入ってきた。





…がちゃ。





仁王立ちのお父さん。紫のふんどし一丁。

頭には宇宙人みたいなボンボリのついた針金がふたつ。

口には、緑色のルージュ。

肩には、そのまま肩パットが。3枚重ねてつけてある。

わきの下からはシルバーのロン毛のウィッグを垂らし、

裸の胸に大きな赤い字で「悦」と書いてある。

腰にぶら下げてるキーホルダーから、

女の人の声で「にょぉ〜ん!にょぉ〜ん!」と流れ続けている。






「ただいま、祐樹。勉強か?偉いな…。」





言い終わるか、言い終わらないかで扉をバタンと閉め、



祐樹の部屋から出て言った。











…原稿用紙に向き直る。




書いた一行を読む…





「…僕のお父さん…」






祐樹は頭を抱え込んだまま、


また4時間動かなかった。





END
2008/02/09 濃い時間。

濃いめのコーヒーを、


濃いめの青色のジーンズにこぼされた。




濃いピンク色のエプロンをした店員の女の子は、


目から濃い涙を浮かべ、


濃いコーヒーがこぼれた濃い緑色の床に、


手をついて濃く謝った。






僕は、濃い憤りを何とか収めて、


濃い声で、もう大丈夫ですと言った。




濃いピンクのエプロンを、


濃いめのコーヒーで汚したまま、


立ち上がった店員のその子は、


すごく薄い顔をしていた。





濃く見つめる僕、薄く見つめるその子。





僕は胸がドキドキした。


たまらなく、その子を抱きしめたくなった。


これが一目惚れというやつか…。







僕は思わず、濃い気持ちを込めて


「あの…恋です。」と言った。






その子は僕の顔を見てこう言った。






『顔、濃いな。』




ショーウィンドウで自分の顔を見る。



「濃いな。」




END
2008/02/09 靴紐。

「ちょっと待って」




玄関の外に出ている僕に、


まだ家の中で靴紐を結びながら君は言った。




半開きのドアを手で押さえながら、


靴紐を結び終わるのを待つ。





このまま、このままの状態で、


季節が変わって…


暑くなって寒くなって…


暑くなって寒くなって…


何年も何年も、


何十年も何百年も、


ずーっと、ここで扉を押さえて待っているから、


君はずーっと靴紐を結ぶ振りして、


僕の後ろでしゃがんでいて欲しいと思った。







ぽんと肩を叩かれて、


「ほら、行こう」と君が言う。





『はいよ』と僕が言う。






「なに食べようか?」


『なにがいいかなぁ』


「なんでもいいよ」


『なんでもいいよね』



END
2008/02/04 さっき思ったこと。
こぼれないうちに。



空が青い。すごく気持ちが良い。

空気が美味しい。

排気ガスまみれの空気ですが、

それでもなぜか美味しい。

自然と顔がにこやかになる。



読んでる本に書いてあった。

「悲しいこと、つらいことは、

そう長くは続かない」って。



さて、ご飯でも食べよう。

飲み物買うの忘れた。まぁいっか。



END


2008/02/03 閻魔大王。
閻魔大王って、もっと怖いイメージだった。



なんだろう、

めっちゃデカくて、

髭ももじゃもじゃで。



牙なんか、あごの下まであって。

なんかドデカイ椅子に、ドデカイ帽子に?

まぁ、その帽子には「閻魔」とか「地獄」とか?

そんななんか、おどろおどろしい言葉が書いてあってさ。



目は釣りあがっていて、顔はデカくて、

ダンプが走り去ったような、どどどぉっと言う声で。

爪も必要以上に長くて。とか。とか?




そんなんが、閻魔大王のイメージでした。






「あなたは死にました。と。天国?がいい?地獄?がいい?」



習字の先生のような、軽い声。

セールスマンのような、たんたんとした喋り方。

小さいオッサンでした。小さい、ハゲオッサン。


「どっする?もちょっと考える?か?」




日曜日にどこに行く?みたいな、

そんなマイホームパパのような、

そんな気の抜けた声。喋り方。


「自分の胸に手を当てて、考えてみてくだっさい…」


オッサンがため息混じりに、言った。




わたしの横に座っている鬼に聞く。


『…えぇ、これでいいんすか?』



鼻の横をかきながら、その鬼が、


「…え?なにが?…」


と、僕を見た。口が歯磨き粉臭かった。





わたしは閻魔のほうに向き直り、


『…じゃあ、もう一回、生き返らせてください。』



「ばかばかばかばか(笑)」




食い気味に怒られた。


END
2008/02/03 消える女性。
「朝になれば私は消えてしまいます。」



そういった女性は、

そっとゆっくり、正座をし、

自分のふとももにぽんぽんと手を置いた。




僕はその太ももに頭をおく。

ほんのり暖かく、やわらかかった。



『どこに言ってしまうの?』と僕が聞くと、

その女性は柔らかく笑って、

「どこか遠くに」と言った。




女性は、僕の肩に手を置き、

ぽんぽんと静かなリズムをとる。




僕は目を瞑り、静かに寝息を立てた。


ゆっくり、ゆっくり、

目の前にある暗闇から深い深い黒になり、

ぼわんと赤が混じりだし、

しずかに眠りに落ちていく。





…。





夢を見た。

高い高い木に登って、

何かを叫ぶ夢。

でもなにを叫んだかは覚えていない。





目を覚ますと外はそろそろ明るくなってきている。

朝が来るのだ。



はっと気付き、横を向いていた体を、

ぐるりと回転させ、上を向いてみると、



その女性はまだ、ここにいた。





『まだ…消えませんか?』

女性はゆっくり頷いた。



僕は体を起こし、正座をした。


女性は僕の太ももに、ぽんぽんと手を置いてから、

そこに頭をおいて、目を瞑った。




『僕は、ずっとここにいますよ。』


女性の体が、だんだんぼやけてくる。


『僕は…僕はずっとここにいます。』



女性は目を瞑ったまま、柔らかく笑ったあと、

手のひらに落ちた雪のように、

僕の太ももから、すーっと消えていった。





ほんのり暖かい僕の太ももに、


熱い熱い雫がこぼれて、消えた。


END
2008/02/03 カプセル。
どうですか?って?

いやいや、怖いですよ。

怖くないって言ったら嘘になりますよ。

全然嘘になりますよ。




叫びたくなりますよ。

助けを求めたくなりますよ。

周りのみんなは先を行きますよ。

置いてけぼりの気分ですよ。





そうは見えませんか?


今はじっとしてますよ?

心ではじたばたしてますよ。




もがいてますよ。苦しいですもん。

右胸がぐぐぐってなりますよ。

左胸は空っぽな感じですよ。






よく言うじゃないですか?

何事も気持ち次第だって。





「これ、酔い止めの薬ですよ?」って、

渡された、ただの何も入っていないカプセルを飲んだら。

ぜんぜん酔わなくなるって。





気持ち次第なんですよね。





ただ、今はなんかしらの影響を、


もろに浴びて怖くなってるだけなんですよ。


ぜんぜん怖くないところにいるのにね。






大丈夫なんですよね?

ですよね。

ただ、大丈夫って言ってほしいだけなんですよ。



何も入っていないカプセルだけでも、


飲ませてほしいんですよ。





それだけで、怖くなくなると思うんですよ。




ありますか?カプセル。


END

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